介護コラム
中国が日本の介護サービスに注目する理由
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2020年に総人口が14億人を突破した中国。そのうち65歳以上の人口は約1.7億人とされ、高齢化社会を迎えています。そうした事態において介護問題が表面化していますが、中国における介護サービスは技術・施策ともに未成熟な分野です。
そんな中、日本の介護サービスが着目され、これを輸出するという動きが活発化しています。
ここでは中国の抱える介護問題と、その解決策として注目される日本型介護サービスとの関係について解説します。
※出典:経済産業省.「介護サービス分野における日本企業の中国事業展開」(参照 2021-10-18)
なぜ中国で日本の介護サービスが注目されるのか
中国で日本の介護サービスが注目されている背景には、高齢者の急増と介護制度の構造的な問題が背景としてあります。
中国では2016年から地域を限定して試験的な介護保険制度が導入されています。しかし上海市以外では重度要介護者の認定しかありません。
日本では要介護・要支援ごとに細かい段階が設定され、状況に合わせた介護サービスを受けることができるためそれらのノウハウも必要とされています。
※出典:ニッセイ基礎研究所.「中国の介護保険制度、全国導入に向けた動き【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(44) |ニッセイ基礎研究所」(参照 2021-10-18)
中国の高齢者人口が急増している
2020年時点での中国の高齢化率は約12%、これが2025年では14%に達し2060年代には30%を超えることが見込まれています。
65歳以上の占める割合が人口の7%以上となると高齢化社会とされるため、この予測数値は深刻なものと捉えられました。
このような高齢者人口の急増から介護サービスの充実が急務とされていますが、前述のとおり中国ではその制度自体がまだ試験段階となっています。
また医療制度の延長として位置付けられているため、その加入年齢は16歳からとなっているなど独立した制度としてはまだ整備途上です。
近い将来確実に到来する超高齢化社会に向けて、中国ではこれら介護サービスの法的・物理的な充実が急務とされています。
※出典:経済産業省.「介護サービス分野における日本企業の中国事業展開」(参照 2021-10-18)
※出典:ニッセイ基礎研究所.「老いる中国、介護保険制度はどれくらい普及したのか(2018)。-15のパイロット地域の導入状況は? |ニッセイ基礎研究所」(参照 2021-10-18)
中国は在宅介護サービスを推進している
現状の中国では基本的に「在宅介護サービス」が推進されています。
それというのも儒教による道徳観念が浸透した中国では年長者を敬う風土が強く、とりわけ老親を自宅で手厚く介護することが孝養と考えられているためです。
裏を返せば老人ホームなどの施設に高齢者を入所させることへの抵抗感があり、そのために在宅介護への需要が高くなっています。
在宅介護への指向は日本の「地域包括ケアシステム」とも類似していますが、中国での実際のサービス内容は基本的な身の周りの世話など単純作業にとどまっているのが現状です。
日本の細やかで洗練された在宅介護サービスが注目されているのは、このような背景が作用しています。
中国の高齢化における課題
中国が迎える高齢化社会の課題には、その圧倒的な分母の大きさからくる高齢人口の多さが挙げられます。
2030年時点での試算では高齢者の人口は約3.7億人に及ぶとされ、出生率の低下とあいまって高齢者の福祉を下支えする能力そのものの弱体化も懸念材料の一つです。
また広大な国土を有する中国では地域間での人口年齢比率に大きな差異があり、北京・上海・天津・浙江省などといった大都市や東北部で高齢化が顕著となっています。
※出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT).「中国における高齢化の状況と就業問題」(参照 2021-10-18)
「一人っ子政策」終了後も低下する出生率
1979年、中国は爆発的な人口増加を抑制するため計画生育政策を施行。
いわゆる「一人っ子政策」で、2014年まで35年間にわたり実施されました。
2014年から2021年5月までは夫婦一組につき子どもは二人までとし、それ以降は出産に関する法的な制限が撤廃されています。
しかし出生率は減少しており2020年ではわずか1.3%、同年の出生数は1,200万人でした。
子どもの養育・教育にかかる費用の高騰もその一因ですが、婚姻に関わる文化風習からその莫大な費用を捻出できず成婚率が低下している点も指摘されています。
このことは他の高齢化社会の例と同様、少ない若者が多くの高齢者を支えていく必要を生じる事態となっています。
※出典:RIETI - 独立行政法人経済産業研究所.「RIETI - 2020年の人口センサスで見た中国経済の課題― 労働力の減少と地域間の移動を中心に ―」(参照 2021-10-18)
中国では段階的に介護制度を導入している
中国の介護制度は2016年から段階的に導入されていますが、当初2020年に全国で運用する計画だったものが2025年までへと軌道修正されています。
中国の介護保険は前述のとおり、医療保険の延長線上に位置付けられており独立した保険ではありません。また現状の介護認定には段階がないため、個々人の状況に合わせた弾力的な運用には課題が残されています。
2016年当初は15のパイロット地域から始まった介護保険の試験運用も、2020年には合計49地域へと拡大されました。
ただしその内容は地域ごとに一律ではありません。
2019年の統計では自立した生活が困難な高齢者は4,000万人を超えるとされており、介護保険の充実による社会扶養の実現が目標とされています。
※出典:ニッセイ基礎研究所.「中国の介護保険制度、全国導入に向けた動き【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(44) |ニッセイ基礎研究所」(参照 2021-10-18)
専門知識を持った介護人材の育成
現在の中国では介護人材の水準向上が求められています。
なぜなら介護職の現場では給与の低さや就労率の少なさ、そして社会的認知度の不足から専門的な知識と技能を持った人材が集まりにくいためです。
在宅介護サービスが家事支援といった最低限の内容となりがちなのもそれに起因しており、専門人材の育成は重要な課題の一つとされています。
また、介護職への偏見も依然根強く、国の施策として教育機関での専門課程や専門資格を設置するなど、高度人材の育成が急務です。
現状では民間主導で個別に介護人材の育成を行っており、スキルやマインドの統一といった課題には国主導での本格的な動きの必要性が指摘されています。
中国と日本の介護市場の展開
高齢化社会での介護におけるハードルの一つに、認知症への対応が挙げられます。
しかし中国では長らく認知症への理解が進まず、投薬によって症状を抑制しようとするのが一般的なアプローチでした。
日本は認知症薬の開発について定評がありましたが、単純な服薬だけではなくその周辺の生活環境や社会的理解といった包括的な取り組みで中国と連携してきました。
その上で介護技術や介護製品などが中国へともたらされています。
介護市場での連携が進んでいる
中国の医療・介護市場では着々と日本との協力体制が進んでいます。
特に日本式の介護サービスというノウハウを吸収し、中国国内での人材育成を活性化させる効果は当初から期待されたものでした。
また日本が持つ施設運営や介護技術といった知的財産、そして中国が持つ豊富な人的リソースや迅速な事業展開力などそれぞれの強みを生かしたシナジー効果が発揮されています。
上記のことから中国は積極的に日本との連携を推進しています。
中国の介護市場に日本企業が参入している
日本側からも中国の介護市場への参入を積極的に進める動きを見てとることができます。
すでに多くの企業が海外での事業展開を企図していますが、中でも中国は巨大な市場として注目されている国の一つです。
いわば介護技術の先進国ともされる日本は、そのノウハウそのものが商品となるため人材育成や介護道具の開発といった知的財産への需要に着目。
日本国内での介護人材不足という問題には海外からの研修生を受け入れ、技術教習を行いながら労働力を補填するといった方策もとられています。
国をまたいでの専門人材育成とUターンが介護市場の好循環を生み出す期待から、日本企業も中国との連携に積極的に取り組んでいることがうかがえます。
まとめ
高齢化社会という共通の問題に直面し、多くの面で利害が一致している中国と日本。
しかしその本格運用には、いまだ文化や習慣の壁が根強く残っています。
これは介護を受ける側の高齢者についても同じことで、中国と日本での感覚の違いをよく理解したうえで事にあたる必要があります。
それぞれがよりよい社会の成熟を実現するためにも、これらの文化的ギャップを踏まえて互いに解消していくことが介護の現場でも求められています。
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